既存のカーオーディオ
スピーカーの弱点


 ショップのデモボードで聴いたときは、それなりにいい音で鳴っていたはずのスピーカーが、それをクルマに付けた状態で聞くと、なぜか音が違っていた。そんな経験をした人は意外と多い。特にドアへ簡単に取り付けることができるトレードインスピーカーに、この傾向が多く見受けられる。この音の違いについては、かなりの確率でドアへの取り付けに問題があるとみていい。そのことをわかっている人は、何とかいい音にしようとドアにデッドニングを施したり、バッフルボードを作ったりと、ドア加工にお金と時間を費やすことになるのである。
 市販のオーディオ用スピーカーの性能は、年々向上してきてはいるものの、ほとんどのユニットはそうしてもある問題をクリアーできないでいる。それは、ほとんどのカースピーカーはユニットだけでは半完成品であり、そのままではメーカーが重い描いて設計した音を出せないということである。 家庭用のスピーカーを思い起こしてもらえばわからるとおり、本来スピーカーは箱に入った状態で音が出るものなのだ。
 箱に入れるのには大きく分けて2つの理由がある。まず、スピーカーユニットの前後を遮断し、前後方向に出る音が互いに音を打ち消してしまうことを防ぐということ。もうひとつは後方をボックス形状にして、ユニットの振動板の動きを制御し、中低域を増強することにある。このボックスの容量や形状の設計が非常に大切で、そこでスピーカーの音は決まってしまうのである。
 にもかかわらず、ほとんどのカーオーディオスピーカーは箱に入っておらず、ユニットがむき出しのままだ。これはさまざまな形状のドアに付けることが前提になるため、ボックスに入ったスピーカーでは汎用性に乏しく付けづらいことと、高価になってしまうことがその大きな理由だ。とくに汎用性の部分では、現状のスタンダードなユニットサイズの13cmや16cmでは、家庭用のミニコンポのスピーカーサイズ並になってしまい、ドアに付けられるサイズや重さにはできないということもある。 必然的にドアをボックス化することで、スピーカーの能力を最大限に発揮させてやろうとするわけなのである。しかし、クルマのドアは大きさや形状、材質がクルマによってまったく違う。そこでショップは、デッドニングやバッフルを作って音の調整をしているのだが、ショップの技術や音への理解の差が、そのまま出てくる音の差にもなってしまうのである。同じにユニットを使っても、クルマやショップが違えば音が違うのはそういう理由なのだ。
 ようするにカーオーディオスピーカーの欠点は、スピーカーの音を決めるのはメーカーだけではなく、付ける人間次第でいかにもなってしまうことにもある。もちろん腕のいいショップにあたればいいが、そうでない場合はお金に見合った音を手に入れることができないことも考えられる。



いい音を誰しもが手にできる
小口径ユニット+エンクロージャー



 ソニックデザインは、会社の設立当時からこのカーオーディオならではの問題点に着目していた。自社でスピーカー開発をはじめる際、車内に取り付けやすい小口径ユニットを絞ると同時に、そのユニットの良さを最大限に発揮できる、汎用性のあるボックスタイプスピーカーシステムの開発を行ってきた。これまで発表されたソニックデザインSystem77を代表とする高品位ボックスタイプのSystemシリーズがその成果で、多くの耳の肥えた音楽ファンを唸らせてきた。そのノウハウをつぎ込んだのがトレードインボックスシリーズだ。
 従来モデルのトレードインボックスは、Systemシリーズのノウハウがあったとはいえ、ユニットもボックスもすべてを新規で起こしたことで、価格を抑えるのは難しい状況だった。しかし、今回新型のTBE-1877Bを出すにあたり、かなり思い切った価格を付けてきた。トレードインボックスとしてのノウハウを蓄積し、筐体の共有化、販売網の拡大を狙っての戦略的根付けもあって、正直言って驚きの価格なのだ。その価格は、なんと3万9800円で、通常のトレードインセパレートスピーカーにデッドニング部材費を加えたものよりも安い価格となっている。ちなみにTBE-1877Bは装着しに際して、ドアの大がかりなデッドニングは不要で、強いて行うなら取り付け部周辺の制振と、ドアの内張りに鳴き止めの吸音材を貼り付けぐらいのものだ。よく行われているドア外側鉄板の制振やサービスホールを塞ぐ大がかりなデッドニングはまったくの不要で、国産車のドア内側に貼られている防水用のビニールを剥がす必要もない。デッドニングが不要で取り付けが簡単というのは、重量が増えないということでもあり、クルマに優しく燃費や耐久性に対しても、十分なアドバンテージを持っていると言える。



ソニックデザインの本物への
こだわりが凝縮されたユニット



 ユニットの構成は、77mmのミッドウーファーを円筒形のエンクロージャー(ボックス)に入れたウーファー部と、18mm径のドーム型トゥイーター、そして各々に専用のネットワークが付属する。77・ユニットの振動板はP.P.と呼ばれる樹脂製だが、カーボンが混入された軽量で高剛性のものが使用されている。
 エンクロージャーは、ユニットを固定し、音の影響をもっとも受けるトップ部は剛性の高いアルミダイキャスト製を採用。後部は軽量な樹脂製だが、巧みに補強を入れて高い剛性を持たせている。エンクロージャーはバスレフ型で、ポートの丈夫形状は上級機にあたるTBM-2577Bと同じだが、ポート内部の形状を最適化して、低域特性をより素直なものとした。ちなみにこんのエンクロージャーの外形寸法は、TBM-2577Bとまったく同じで、取り付け用のブラケットが最初からエンクロージャーに固定されている。このブラケットは多くの国産車の17cmサイズの取り付け位置に対応していて、17cmスピーカー搭載車ならば、奥行を含めてほとんど無加工で装着が可能となっている。
 トゥーターは18mm口径で、TBM2577で使われている25mm口径のトゥイーターに比べて、一回り以上小型化された。そのため、ドアミラー裏やドアノブ付近に付けられている純正トゥイーターならば、そのまま交換が可能である。振動板は繊維系で堅さを感じさせない滑らかな高域再生を行ってくれる。周波数特性のカタログスペックは25kHzまでと控えめだが、実際にはその数字までほぼフラットで、実際に聴いた感じでも音の伸びや艶やかさは非常に優れている。
 この2つのユニットの周波数をつなぎ合わせるクロスオーバーネットワークは、最小限のパーツで構成され、耐候性に優れたチューブに収められている。小型化が図られているので、ドア内側に貼り付けることも可能で、取り付け性も優秀だ。ケーブルはOFC線を使用し、音質への配慮もなされている。
 ウーファー部は従来のトレードインボックスTBM-2577Bとまったく同じで、取り付けネジ穴以外はバッフルも不要で、ほぼ無加工で装着ができる。トゥイーターはTBM-2577用と比較して、その違いは一目瞭然。純正トゥイーター位置がない場合、加工しての装着、装着場所を選ばないサイズと重さで、見映えを気にしなければドア内張りに両面テープでの固定だって可能なほどだ。基本的には購入ショップでの装着が前提のスピーカーシステムだが、DIYでも十分装着が可能。デッドニング必要ない分、いい音を出すまでの工程は、明らかに既存のトレード用スピーカーよりも楽で早いと言える。



クラスをはるかに凌駕する
上質なサウンドを提供


 このTBE-1877Bで驚いたのは、価格が安いからといって音質は決して悪いものではないどころか、クラスがはるか上のサウンドだったことだ。その音は上級機との価格差を考慮したような音作りなどとは無縁の世界で、ある意味価格を無視した音といっていい。確かに曲によっては低域に物足りなさを感じる場合はあるが、それは小口径ゆえでソニックデザインだって百も承知のこと。低域を重視する人にはサブウーファーを推奨しているし、その場合の推奨クロスオーバーも公表している。
 このシステムの良さは、中低域から高域までが、ほとんど歪みなく素直な音出しをする点にある。不自然な色づけがなく、アタック音もきつく鳴らず、音抜けは抜群にいい。高域のつながり、特に女性ボーカルの艶やかさは、TBM-2577Bよりもこちらの方がキレイ、ボーカルの存在感もよく楽器の位置も明瞭だ。音はニュートラルだが少し明るめで、ポップな曲に非常に合う。
 これだけの音が出ると、上位に位置するTBM-2577との差を見つけたくなってしまうし、読者諸兄も興味があるだろう。実際にこの2機種の差は、情報量と鮮明さが一番さと感じる。TBM-2577は情報量が豊富で解像感が高い。音はどこまでもニュートラルで、じっくり聞き込むにつれて、音楽の深みを感じることができる。ジャズやクラシックをじっくり聞き込むならば、TBE-2577の方がオススメだ。しかしボーカル主体で、楽器の微妙な音の際の聞き分けを求めず、ピンポイントの定位を求めないのであれば、音楽の雰囲気はTBE-1877Bの方が得意のようだ。
 それにしても驚異的なスピーカーが登場したものだ。取り付け能力に左右されないで、メーカーが聴かせたい音で聞くことのできるスピーカーがこの音でこの価格。3万円クラスのトレードインスピーカーを作っているメーカーは、今後の戦略を練り直す必要があるのではないかと思ったほど、その登場は驚きのものだった。